修習生時代の役に立つ経験(検察編)


私は、平成5年に司法試験に合格、平成8年に弁護士登録して、今年で弁護士24年目となります。司法試験に合格してから弁護士等の実務家になるまでの間には、司法修習生というインターン期間があります。現在は1年間ですが、当時は2年間と十分な期間が与えられていました。私は平成6年4月から平成8年3月まで修習生をやらせていただき、実務修習(2年間のうち約1年半が実務修習で、残りの期間が司法研修所での全体修習となります。)は、大阪に配属となりました。
私自身は、当初から弁護士志望でしたが、志望の如何(裁判官、検察官、弁護士)にかかわらず、実務修習では、裁判所(民事・刑事)、検察、弁護士の全てのインターンシップの機会が与えられます。弁護士になる者にとっては、裁判所と検察を内部から見せていただける非常に貴重な経験です。今回は、実務修習のうち検察修習での経験について話をさせていただきたいと思います。


検察修習では、いろいろな現場講習があり、痴漢捜査の立ち合い(御堂筋線なんば駅での現場講習では、刑事の担当指導教官が、まさにこれから痴漢をしようと電車に乗り込む男を特定し、目から鱗が落ちる説得力十分の判断方法を教えてくれました。その方法を聞けば、誰でも簡単に痴漢を見つけられます。)等貴重な経験をたくさんさせていただきましたが、今回は、「役にたつ経験」として、逮捕されたときの取り調べに対する対応方法を取り上げさせていただきます。


検察修習は、基本的に検察庁で行われますが、日々の修習が終了した後に、検察庁内で検察官と修習生何人かで話をしていた際に聞かせていただいた話となります。その時の話題は、被疑者の立場にたって、逮捕されたらどのようにするのが最も有効かというものでした。
検察官曰く、「俺がもし逮捕されたら絶対に完黙(完全に黙秘すること)や。」とのことです。そして、その理由を熱弁してくれました。全ては記憶していませんが、一番のポイントは、検察は裁判で絶対に有罪にできると判断しなければ起訴しないので、実際には自白調書がとられなければ起訴されない事案が多いというものでした。
自白は、「証拠の女王」と呼ばれる極めて重要な証拠です。一旦、自白調書が作成されてしまうと、それを裁判で覆すのは、ほとんど難しいのが実情です。そのため、検察が起訴するか否かを判断するに際しては、自白調書が存在するか否かは非常に大きい判断要素となり、自白調書が存在しない場合には、起訴を躊躇せざるを得ないということです。


逮捕されると23日間身柄を拘束されるといわれますが、それは、逮捕されると48時間以内(2日間)に検察に連れていかれ、検察は24時間以内に裁判所に勾留請求をします。その後、裁判所で勾留質問が行われ、勾留状が出されます。勾留は10日間ですが、検察から勾留延長請求が出されると、さらに10日間勾留されることになり、合計23日間身柄を拘束されることになるという仕組みです。検察は、その間に、当該被疑者を起訴するか否かを決めなければならず、起訴しないと判断された場合には、晴れて釈放されることになります。
「俺がもし逮捕されたら絶対に完黙や。」は、現役検察官の発言だけに非常に的を射たものといえます。私自身、弁護士となってからそれほど多くの刑事事件を担当したわけではありませんが、これまでに担当した事件で、起訴されずに身柄を解放されたという事件が4件あります(4件のうち、3件は勾留期間満了による釈放で、1件は勾留取消によるもの。)。これらの結果に、検察修習での経験が役に立っているのは間違いありません。


黙秘権は憲法上保障された被疑者の重要な権利です。本コラムを読まれているご本人若しくは身近な人が逮捕されるということはあまりないとは思いますが、仮にそのような事態となった場合には、本コラムを思い出していただき、最善の対応をとっていただければと思います。ただし、ケースバイケースであり、なんでもかんでも完黙というわけではありませんので、黙秘権は、事件の担当弁護人と十分に相談していただいたうえで行使されるようご注意ください。



2019年(平成31年)3月18日
さくら共同法律事務所
パートナー弁護士 泊 昌之