トピックス

東京電力女性社員殺人事件第1審判決(平成12年4月14日)

第一 事実関係
一 死体発見の経緯
 Aは、渋谷の繁華街にあるネパール料理店Nの店長であるが、近くにあるK荘101号室の管理を委ねられていた。  平成9年3月18日午後3時頃、K荘101号室に立ち寄ったところ、無施錠の窓から室内を見渡すと人が寝ているようにも見えたが、その頃、空室であった101号室を借りたいという申し出があったりしたので、その関係者が入り込んで仮眠しているものと軽く考え、放置して、施錠して立ち去った。
 3月19日午後5時頃、再度立ち寄り、室内に立ち入ったところ、女性が死亡しており、直ちに110番通報した。
 被害者の着衣に乱れはなく、傍らにショルダーバックがあり、現金(硬貨)、勤務証、包装された未使用のコンドーム28個などが入っていた。取っての部分はちぎれていた。
 死体の解剖の結果、頭部、顔面部等に打撲傷、擦過傷がある。死因は、頚部圧迫による窒息死。死後1週間内外を経過。死体の血液型はO型。膣内精液検査の結果、O型の精子の存在が確認された。

二 被害者の行動
 被害者は、都内で、実母、実妹の3人暮らし。東京電力勤務。勤務終了後に円山町界隈で、また休日は五反田のホテトルで売春婦をしていた。
 平成9年3月8日、被害者は、五反田のホテトルに出勤したが客がつかなかったため、午後5時30分頃同店を出た。午後7時頃、常連客のBとハチ公前で落ち会い、午後7時13分ころラブホテルに入室し、コンドームをつけずに性交し、その後、シャワーを浴び、湯船につかった後、同10時16分頃にホテルを出た。この常連客Bの血液型はO型であった。その後、被害者は、10時30分頃から円山町で客引きのために佇立していた。
 午後11時25分頃から35分頃の間に、男女のアベックがK荘1階通路に通じる階段を、女性が先に、その後を男性が上がっていくのが目撃され、男性は東南アジア系の顔立ちであった。女性は、その体型、衣装等の特徴から被害者であることが判明した。
 K荘201号室の居住者であるCは、3月9日午前0時前頃、101号室から男女の性交時のあえぎ声を聞いた。
 被害者は、平素、帰宅が遅くなることはあったものの無断外泊することはなかったが、3月8日に家を出てからは何の連絡もないまま帰宅せず、翌日も勤務予定であったホテトルに出勤しなかった。

三 被告人のアリバイ等
 被告人は、ネパール国籍を有する外国人で、K荘の南隣にあるYビル401号室を借り受けて居住していた。
 3月8日は勤務先のインド料理店(JR京浜幕張近く)で勤務していたが、タイムカードには、午後9時57分に退出したとの打刻がある。JRの時刻表と捜査官による実測の結果からすると、午後11時30分までに勤務先からK荘に被告人が到達することは十分に可能である。
 被告人の同居人であるメッシュが、午後11時27分過ぎと11時50分過ぎの2回、401号室に電話したところ、2回とも誰も電話を取らず、留守番メッセージが応答した。そして、翌午前1時頃に帰宅すると、被告人が一人でテレビを見ていた。
四 犯行現場の遺留物
 被害者は、常連客Bから売春代金として3万5千円(4万円を受領し、5千円を釣りとして返還)を受け取ったが、この4万円は発見されていない。
 3月19日の実況見分の際、101号室の和式便所の便器内に青色の水が溜まっており、コンドーム1個が浮いているのが発見された。コンドームの精液溜まりから3センチくらい青色の水溶液(ブルーレット)が入っており、精液が混入していた。本件コンドームは、被害者のショルダーバックにあった28個のコンドームの中の1個と同一であり、円山町のホテルに備え付けられているものであった。
 この精液はB型であり、被告人の血液型と一致。
 本件コンドームは、被告人が被害者と性交をした後遺留したものである(この点については争いはないが、遺留の時期について大きな争点となっている。)。なお、これを包装していたパッケージは、101号室からは発見されていない。

五 精液のDNA鑑定等
 平成9年当時、警察庁科学警察研究所で開発されていた4種類のDNA検査を行ったところ、本件精液から抽出されたDNA型は、全ての検査方法において被告人の血液から抽出されたDNA型と一致した。

六 遺留時期についての鑑定
 本件精液の遺留の時期(本件精液が、3月19日に採取されるまで、どの程度の期間滞留していたか)について、以下の内容の鑑定がある。  任意の男性4名から採取された精液を、ブルーレットの水溶液に混合して室温で放置しておき、精子の形状(特に、精子頭部・尾部の脱離及び頭部形状)の経時変化を観察したところ、①10日経過後において、頭部と尾部が分離した精子の割合は30〜40%であったが、20日経過後においては、それが60〜80%であった、②これに対して、精子頭部の形状は、10日後でも全てはっきりしていたが、20日後には崩壊しているものが多く見られた。
 他方、冷凍保存してあった本件精液の精子形状を観察したところ、尾部は存在していてもほとんど痕跡程度であり、頭部は正常な形態を保っていた。
 鑑定人は、任意の男性4名から採取した精液の実験が清潔な環境で行われたのに対し、本件精液が便器内の不潔な環境下に置かれていたことからすると、実験において20日後経過した時点で観察された頭部と尾部の分離現象が、本件精液においてはより早く、便器の滞留水中で10日程度経過した時点で生じた可能性も考えられるから、犯行日と推定される3月8日に放置されたとしても矛盾はないという内容の鑑定意見を提出している。

七 陰毛等のDNA鑑定等
 カーペットの上から4本の陰毛が発見されたが、2本は被告人と同じB型、2本は被害者と同じO型。帝京大学医学部法医学教室で行われたDNA鑑定によれば、B型と判定された1本の陰毛は被告人のそれと一致、O型と判定された1本の陰毛が被害者のそれと一致。
 ショルダーバックの取ってから、被告人の血液型と一致するB型の血液型物質が検出された。

八 被告人の生活状況及び犯行日後の行動等
 被告人は出稼ぎ目的で来日したネパール人であり、千葉市のインド料理店で月曜日を除く毎日、午後零時から午後10時まで勤務し、毎月5日には、月額20万円前後の給与の支給を受けていた。
 K荘に隣接するYビル401号室に、ネパール人である、同居人1、ナレンドラ、同居人2、マダン、ラメッシュと居住し、家賃は5万円であるところ、同居人から月額3万円の家賃と2千円の電話使用料を徴収し、差額は自己の収入としていた。
 被告人は、ネパールで自宅の新築工事を行っており、その資金送金のため切りつめた生活をしており、通勤はキセル乗車を行い、毎月10〜20万円程度の本国送金をしていたためいつも金銭的に逼迫した状況にあった。給料日近くになると、同僚や友人などから借金をしてしのぐ状況が続いていたが、2月はいつもより多額の30万円を送金したため、401号室の家賃を滞納した。
 被告人は3月9日は通常通り出勤し、10日には同僚を自室に招いているほか、19日までは仕事を続けていた。ところが、死体が発見された3月19日夜、自宅に帰ったところを警察官から事情聴取されたため、不法残留容疑で検挙されることをおそれて、同居人らとともに401号室を飛び出し、ウィークリーマンションなどを転々としたが、警察が自分たちを捜していることを聞かされたことから、22日に、渋谷警察署に出頭した。

九 被害者と被告人の関係についての被告人の供述(なお、被告人は、捜査段階では、被害者との面識、係わりを聞かれても、黙秘ないし否認していたが、第26回公判で初めて詳しい供述を行った。)
 被告人は、平成8年12月20日頃、渋谷の繁華街で被害者に「あなたがセックスを望むなら1回5千円です。」と声をかけられた。「ホテル代がない」というと、被害者が「どこでもいい」というので、401号室の自分の部屋に同行した。そして、部屋に同居していた同居人1、同居人2とともに順にセックスをした。
 次に、12月の終わり頃、被告人、同居人1、同居人2が部屋にいるとき被害者が訪ねてきて、「今日もセックスをしませんか。」と言ってきたが、同居人1、同居人2が「ここは被告人のお姉さんの部屋なので、二度とここに来ないでください。」といって追い返した。
 次に会ったのは、平成9年1月下旬頃で、仕事から帰るときに被害者に声をかけられ、当時もっていたK荘101号室の鍵を使って部屋を開け(被告人が鍵を持っていた理由については後述)、その中で、被害者から渡されたコンドームをつけてセックスをした。売春代金として5千円を払った。  そして、最後にあったのは2月25日(友人から1万円を借りた日)から3月1日もしくは2日(3,4日は勤務が休みでその前)のことだった。被害者が「今日もセックスをしませんか。」と言ってきたので、101号室に行き、鍵を使って部屋を開け、被害者から渡されたコンドームを使ってセックスをした。売春代金5千円を支払うために1万円札を出したが、「小銭の方がよい。」というので探したところ、4,500円しかなかったが、次に会ったときに清算してくれればよいと言われた。なお、この時支払った金額について、当初は、定期券代(4,640円)に少し足りない金額であった4,500円と説明していたが、後に「最大で4,500円というのは確かだと思うが、それよりも少ない可能性いくらでもある。千円札だけということはなかった」と供述が変わり、さらに「多ければ4,500円、3,500円かもしれないし2,500円かもしれない。」と少ない方に修正して供述している。
 なぜ、2月25日から3月2日までの間であったかといえるのかは、被害者に出した1万円札が友人から借りた金であり、借りた日が25日であること、また3月3日、4日の連休の前にセックスをした記憶があるからである。
 使用したコンドームは、部屋を出るとき、トイレの中に捨てた。水は流さなかった。
 部屋の玄関のドアは被害者が閉め、自分は、鍵をかけなかった。その理由は、5日に給料がはいると、6日に家賃と一緒に鍵を返すことになっていたから(この点の詳細は後述)、その後もセックスに使えるように、部屋に入れるようにしておくためであった。
 その後、被害者と会ったことはない。
 なお、被害者との面識がないと供述したのは、自分がセックスをしたことを言うのがはずかしかったし、男3人でセックスしたのは悪いことだと考えたので、言いたくなかったからで、また、自分がセックスをした女性がその部屋で殺されたので、私が犯人と疑われると思ったので知らないと答えた。
一〇 被害者の手帳の記載
 被害者のショルダーバックにあった手帳と押収された平成3年から平成8年までの被害者の手帳には、売春の日時、相手、金額等が克明に記載されている。そして、犯行の直前である3月7日の売春分まで記入されていて8日以降の欄が空白になっている(なお、被害者は、7日に円山町の駐車場を使用して売春行為を行っていることが、手帳の記載と客の供述から明らかになっている。)。
 そのうち、売春の相手方の記載については、具体的な個人名が記載されたもの、「外人」と記載されたものなどがある。また、「?」と記載されたものもある。
  相手方が特定できた20名について捜査当局が事情を聞いたところ、これらの相手客の買春の日や支払った金額は手帳の記載内容と概ね一致してる。
 そして、平成8年の12月の欄を見ると、12日の欄に「?外国人(401)3人1・1万円」の記載があり、16日の欄には「外人(401)0・3万円」の記載がある。次に、平成9年1月23日の欄に「ネパール人0・2万円」の記載がある。次に、2月28日の欄に「?外国人0・2万」の記載がある。2月25日から3月2日までの欄を見ると、2月28日に「?外人0.2万円」という記載がある以外には、外国人を売春相手とするような記載はない。

一一 鍵の返還時期について
 K荘101号室の鍵は、店長Aが管理していたが、被告人の姉が来日し401号室に住むことが予定されたため、被告人は同居人に101号室に移って欲しいと伝えるとともに、店長Aから鍵を借り受け、同居人らに101号室を見せるなどしていた。しかし、2月末日頃までには結局姉の来日が中止になったために、店長Aは、3月1日、被告人に対し、鍵を返還し、また401号室の2月分の家賃が滞納になっているので支払うように401号室の留守番電話にメッセージを残した。すると、被告人は、折り返し店長Aに電話をしてきて、本件鍵と一緒に2月分と3月分の家賃合計10万円を届けることを約束し、その後店長Aに本件鍵と家賃を届け、店長Aはこの家賃を大家の会計担当者Dに納金し、同人は3月11日にこれを銀行口座に入金した。
 ただ、本件鍵と家賃を届けた時期が重要な争点になっている。すなわち、犯行日である3月8日に被告人が本件鍵を持っていたかどうかという点であるが、被告人は、給料日の翌日である6日に、同居人2に家賃10万円とともに鍵も託して、店長Aに届けたと供述するが、これに関する関係者の供述ないし証言は以下の通りである(なお、「供述」とは、ある人が述べたことを取調官(警察官もしくは検察官)が聴き取り、その内容を供述調書という書面に書き留めた場合に、その書き留められた内容のことをいい(それは取調官が主導した内容になる)、「証言」とは、ある人が、法廷で、検察官、弁護人、裁判官から聞かれた質問に答えて述べた時のその内容をいいます。)。

 店長Aが本件鍵と家賃を受け取った時期について、店長Aは次のように供述ないし証言する。
 「督促の留守電を入れた3月1日の2,3日後に、被告人から電話があり、3月5日の水曜日に本件鍵と家賃を持っていくと返答があった。ところが、3月5日には持って来ず、その4,5日後に持ってきた。受け取った家賃10万円は、大家の会計担当者Dにすぐ届けた。警察の調べで、届けた家賃を会計担当者Dが入金したのが3月11日で、被告人の休日が10日だったと聞き、10日に持ってきたと思った。」と供述する。
 しかしながら、他方で、「一番最初の取り調べの際には、警察官に対して、本件鍵を返してもらったかについては覚えていないと言ったと思う。」、「被告人から家賃と本件鍵を受け取ったのはいつだか最初は覚えていなかったが、会計担当者Dが銀行に家賃を入金しているのが3月11日ということなので、10日くらいかな思ったし、10日は月曜日で、被告人の休日だと警察から聞いたので、その日に本件鍵を受け取ったと思った。」、「本件鍵と家賃が持って来られた情景は全然頭に入っていないが、本件鍵と家賃分の現金が自分のもとに来ているのだから一緒に来たのかなと思う。」、「とにかく自分にとっては仕事の流れだから、確実に入金されているときは全然覚えていない。」、「被告人以外の者から鍵の返還を受けた記憶もない。」、「届けた人物についても記憶がない。」などとも証言している。

 会計担当者Dは、次のように供述ないし証言する。
 「自分は、同じ大家が経営するカプセルホテルの経理事務も担当しており、家賃を受け取ると、カプセルホテルの売上金を銀行に入金するときに一緒に持っていって入金していた。売上金との混同を避けるために、家賃は受け取ったらなるべく早く入金するようにしていた。銀行の通帳を見ると、家賃10万円は3月11日に入金になっている。10日に6日から9日までの4日分の売上金が入金になり、11日に10日の売上金が入金になっているので、家賃は、10日の夕方から翌日入金するまでに、店長Aが持ってきたものと思う。」
 しかしながら、他方で、「売上金の入金については、会社で行けない事情がある場合や仕事の事情で午後3時をすぎた場合は、次の日に回す場合もある。」、「複数のいろいろな入金があるので、受け取った当日または翌日のうちに入金したのかそうではないのか、必ずしも覚えていない」、「家賃を受け取ってから何日も自分の手元に置いていたこともあったと思う。」とも証言している。

 同居人2の供述ないし証言。
 「3月5日夜12時前、被告人が帰って来た。部屋には、モハン・カドカとマダンと私がいた。私は、被告人に請求されて1万円を渡したところ、これに9万円を足した10万円と本件鍵を被告人がくれて、『自分が仕事に行く前には間に合わないし、帰ってきても夜になるので、翌日昼間の時間に店長Aに持っていって下さい。』と頼まれた。翌6日午後12時30分頃家を出て、店長Aの勤務するレストランNで、当時このレストランで勤務していたマラヤン・マッラに会い、店長Aを外に呼んでもらって、10万円と本件鍵を渡した。」、「3月6日と覚えているのは、自分が新しい職に就いた第1日目であり、前の職場で3月5日に支給された給料21万円をその日のうちに銀行に入金したからである。」と証言し、銀行口座には6日に21万円の入金が記帳されている。
 しかしながら、他方で、同居人2は、警察官の取り調べに対して、「被告人が鍵を返した。」、「被告人から頼まれて自分が返した。」などといい、外国人登録法違反で逮捕されると「自分が返したとの口裏合わせを頼まれた。」と変遷し、その後、弁護人が接見するようになると「自分が返した。」となった。そして、逮捕後、「口裏合わせを頼まれた」と供述したのは、「捜査官の取り調べが長時間継続し、何を聞かれてもその通りだと答えてた。」、「二度と日本に来られないようにするなどと言われ、取調官の言う通りに調書を作った」などと供述している。

  マッラの証言。
 「同居人2はよく知っているが、昼の時間帯に来て、店長Aを呼んでくれと言われた記憶はない。」というが、「当時店が忙しかったので、同居人2が来たとしても覚えていない可能性もある。」とも言う。

 マダンの証言。
 「3月5日の夜、被告人が帰宅した時、被告人に起こされて家賃と電話代の請求をされた。被告人と同居人2との間に金品の受け渡しがあったという記憶はない。」

一二 被告人の収支状況
 被告人は、3月5日に給料の支払を受け、また同居人から家賃を受け取るとともに、借金を1万円、1万円、15万円、5万円返済し、さらに家賃10万円を支払っているが、被害者から4万円を強取することなしに、そうした返済が可能かどうかが争点である。家賃の支払時期とも関連し、それはすなわち本件鍵の返還時期とも関連することになる。

 ナレンドラの供述
 「2月6日から8日頃までの間、被告人から、本国に30万円送金したいので10万円借金したいと申し込まれ、倍の20万円にして返してくれるかと半ば冗談で言うと、被告人は次の給料日に返すというので、手持ちの10万円を貸した。すると、被告人は、給料日の翌日である3月6日、20万円全額ではないが、15万円を返し、その後13日か14日に5万円をよこしたので、約束を守ったことになった。」

 被告人の説明
 「被害者と最後にあったとき(2月25日から3月2日もしくは3日の間)、ハッシムから借りた1万円と定期代(4,640円)より少し少ない小銭をもっていた。売春料として1万円を差し出すと、被害者から小銭の方が良いと言われ4,500円を支払った。足りない分は、次のセックスの時でよいと言われた。」
 「3月の5日から7日の間にマダンから、10日にラメシュから、それぞれ家賃3万円を受け取り、自分の給料の残り9万円にこの6万円を足してナレンドラに15万円を返した。1回で支払ったか、10日前に先に12万円を支払い、ラメシュから借りた3万円を別に払ったかは、はっきりしない。その後、別の知人から5万円を借り、そのうち4万円をナレンドラに支払った。1万円の不足は特に問題にされなかった。」

 ラメシュの証言
 「3月5日から7日の間、被告人の給料日が5日なので、その翌日の6日だと思うが、午前10時頃、被告人がナレンドラに、借りた金を返すよと言って、かなり多くの1万円札を財布から取り出し、手渡すのを見た。10万円以上はあったと感じた。」

一三 被害者の定期券入れ
  被害者の定期券入れが3月19日に、豊島区巣鴨の民家の敷地内で発見された。

一四 同居人のアリバイ
犯行時間の時間帯において、同居人らが被害者とK荘付近にいた形跡はない。

第二 検察官の主張
 被害者は、3月8日深夜、K荘101号室で、売春客にコンドームを装着させて性交し、その後身支度を整えた際、この売春客からショルダーバックを強く引っ張られ、顔面等を殴打されたほか、頚部を絞められて殺害された上、少なくとも所持していた4万円を奪われたものであるが、この売春客が被告人であることは以下の事実から明らかである。
1 101号室に遺留された精液のDNA型と血液型が被告人のそれと一致すること、また、遺留された陰毛のうち、一本のDNA型及び血液型が被告のそれと一致することから、被告人が被害者と101号室で性交したことは明らか。
 遺留された精液中の精子の形状から、精液が遺留された時期は被害者殺害の時期と矛盾しない。
2 ショルダーバックの取ってから、被告人の血液型と一致するB型の血液型物質が検出された。
3 101号室の鍵は、犯行後まで被告人が保管しており、犯行時点において101号室に出入りできたのは被告人だけであった。それにあわせて、鍵の返却時期について同居人2と口裏合わせを行っていた。
4 犯行直前には、401号室の家賃支払いのための所持金がなかったのに、犯行直後にはそれが用意できた。
5 犯行時間頃、101号室に到達することは可能であった。
6 被告人は被害者と面識があったにもかかわらず、それを否定していた。

第三 争点の解説
 本件では、101号室のトイレに遺留された本件コンドーム内の精液は、被告人のものであること、本件コンドームをトイレに捨てたのが被告人であることに争いはありません。
 従って、最大の、かつ決定的な争点は、コンドームが捨てられたのが平成9年2月25日から3月2日までの間であるのか(被告人の主張)、3月8日の犯行当日であるのか(検察官の主張)ということになります。

第四 検察官の主張の検討と裁判官の判断内容
 裁判所は、上記争点に関する検察官の主張を検討し、次のように評価しています。

一 遺留されたコンドーム内の精液に関する検討
 被害者の膣内から、精子とO型の血液型物質が検出されており、この残留精子については、常連客Bが被害者とコンドームを使わずに性交しており、常連客Bの血液型がO型であるから、残留精子は常連客Bに由来する。その後に被害者は、売春客と性交しているから、売春客は性交時にコンドームを用いた可能性が高い。そして、本件コンドームは、被害者が携行していたコンドームの一つと同製品であるから、残された本件コンドームは売春客の使用したコンドームであると考えるのが自然である。
 遺留された本件コンドームは被告人が使用して、便器内に放置したものであるから、この事実は、被告人が3月8日の売春客であることをうかがわせる有力な状況証拠である。
 また、2本のB型の陰毛のうち一本の陰毛のDNA型が被告人のそれと一致し、O型の陰毛の一本のDNA型が被害者のそれと一致していることから、これらの陰毛が被告人と被害者の性交時に遺留されたものと推認され、これも被告人が3月8日の売春客であることをうかがわせるものである。

二 本件コンドームの遺留の時期について

  検察官は、本件精液中の精子の頭部は正常な状態を保っていたところ、鑑定意見にあるように、射精から10日経過後の精子では頭部の形状がはっきりしているのに、20日経過後の精子の頭部は崩壊していることが多いことに鑑みると、本件精子は3月19日の採取日までに10日前後経過した状態であり、これが被害者殺害の3月8日と時期的に附合するという。
しかしながら、鑑定結果によれば、ブルーレット混合液に精液を放置した場合には、放置10日後では、頭部と尾部が分離した精子の割合は30〜40%であり、放置20日後では、その割合は60〜80%であったところ、本件精子の形態を観察したところ、頭部のみの精子であって、尾部は存在してもほとんど痕跡程度であったというのであるから、この結果を見ると、本件精液は10日以上放置されていた可能性の方が高いともいえる。

三 本件ショルダーバックの取ってからB型陽性反応が認められたことについて
  本件ショルダーバックの取ってからは、B型陽性反応が認められているから、ショルダーバックの取っ手に血液型B型の人物が接触した事実が認められるところ、被告人の血液型もB型である。

四  被告人は、鍵を本件犯行後も保管していたという検察官の主張について
  被告人が3月8日以前に鍵を預かっていたことは争いがないので、その返還時期を検討する。検察官は、店長Aの供述に基づき、被告人が鍵を店長Aに返還したのは3月10日であると主張する。
 会計担当者Dは、通常、店長Aから預かった家賃だけを入金しに行くことはなく、売上金の入金の際にあわせて入金しており、証拠上、3月6日、10日、11日に売上金が入金されており、また、11日に401号室の2ヶ月分の家賃が入金されていることが認められる。そして、会計担当者Dは、「売上金との混同を避けるために、家賃は受け取ったらなるべく早く入金するようにしていた。」、「家賃は、10日の夕方から翌日入金するまでに、店長Aが持ってきたものと思う。」と供述しているので、売上金の入金日である10日から翌11日の家賃入金日までの間に、会計担当者Dは店長Aから家賃を受け取ったと一応推認できる。
 そして、これは、「3月5日には持って来ず、その4,5日後に持ってきた。受け取った家賃10万円は、大家の会計担当者Dにすぐ届けた。」という店長Aの供述ともよく附合するようにも思われる。
 しかしながら、他方で、店長Aは、「一番最初の取り調べの際には、警察官に対して、本件鍵を返してもらったかについては覚えていないと言ったと思う。」、「被告人から家賃と本件鍵を受け取ったのはいつだか最初は覚えていなかったが、会計担当者Dが銀行に家賃を入金しているのが3月11日ということなので、10日くらいかな思ったし、10日は月曜日で、被告人の休日だと警察から聞いたので、その日に本件鍵を受け取ったと思った。」、「本件鍵と家賃が持って来られた情景は全然頭に入っていないが、本件鍵と家賃分の現金が自分のもとに来ているのだから一緒に来たのかなと思う。」、「とにかく自分にとっては仕事の流れだから、確実に入金されているときは全然覚えていない。」などとも証言し、本件鍵の受取状況については、記憶が相当希薄になっており、曖昧な部分が多いことを自認している。受取日を10日と供述したのも、捜査官の誘導にのったともいえなくはない。
 また、会計担当者Dも、「売上金の入金については、会社で行けない事情がある場合や仕事の事情で午後3時をすぎた場合は、次の日に回す場合もある。」、「複数のいろいろな入金があるので、受け取った当日または翌日のうちに入金したのかそうではないのか、必ずしも覚えていない」、「家賃を受け取ってから何日も自分の手元に置いていたこともあったと思う。」とも証言しているのであるから、例えば、6日に店長Aから家賃を受け取ったとしても、10日まで入金するのを失念した可能性も否定できない。
 そうすると、店長Aや会計担当者Dの供述ないし証言からは、会計担当者Dが10日に売上金を入金した後に家賃を受領したとまでは断定できない。
 なお、同居人2による口裏合わせがあったとの供述であるが、この供述は、同居人2が入管法違反容疑で逮捕された後に出てきた供述である一方、逮捕前(当然、弁護人の接見前)には「被告人から頼まれて自分で返した。」という供述を行っているのは注目に値するし、 「捜査官の取り調べが長時間継続し、何を聞かれてもその通りだと答えていた。」、「二度と日本に来られないようにするなどと言われ、取調官の言う通りに調書を作った」などという弁明も無下に一方的に排斥することはできない。
 なお、死体発見時には101号室の玄関は施錠されていなかったのであるから、被告人が鍵を犯行後も持っていたか否かということが、被告人と本件犯行の結びつきを直ちに決定するものとはならない。

五 被告人は、犯行日直前には、401号室の家賃支払いのための所持金がなかったという検察官の主張について

  本件鍵が家賃10万円の支払とともに返還されたことに争いはないから、被告人が同居人2に家賃を渡した日だとする3月6日当時、被告人が10万円の家賃を用意できたかどうかを検討する。
  検察官は、3月5日に給料の支払いを受ける直前には被告人の所持金がほとんどなかったことを前提に、犯行直前の3月7日までの被告人の所持金は10万円余りであり、生活費等を考慮すると、家賃10万円の捻出はできなかったはずだと主張する。
 この点に関し、ナレンドラは、「2月6日から8日頃までの間、被告人から、本国に30万円送金したいので10万円借金したいと申し込まれ、倍の20万円にして返してくれるかと半ば冗談で言うと、被告人は次の給料日に返すというので、手持ちの10万円を貸した。すると、被告人は、3月6日、20万円全額ではないが、15万円を返し、その後13日か14日に5万円をよこした。」と供述する。また、ラメシュは、「3月5日から7日の間、被告人の給料日が5日なので、その翌日の6日だと思うが、午前10時頃、被告人がナレンドラに、借りた金を返すよと言って、かなり多くの1万円札を財布から取り出し、手渡すの見た。10万円以上はあったと感じた。」と供述する。また、被告人自身、ラメシュから家賃相当額を受け取った日の3月10日以前にナレンドラに12万円の限度で借金を返済したことは認めているから、犯行日の3月8日前後ころには、被告人がナレンドに10万円を超える金額の返済をしたことは認定できる。
 しかしながら、被告人やナレンドラの間には、1万円、2万円の額の貸借は頻繁にあったというのであるから、ナレンドラの供述は、適確な裏付けがなければ、具体性に欠けると言わざるをえないのであり、返済金額については、「10万円以上はあったと思う。」というラメシュの供述の限度でしか、適確な裏付けを欠く。また、ナレンドラは、返済日を3月6日と供述するが、その日であるという具体的根拠は何ら明らかにされているとはいえず、ラメシュの供述も同様の指摘ができる。そうすると、ナレンドラへの返済額は、被告人も否定していない額である12万円であった可能性も否定できないし、返済日についても、せいぜい犯行日の3月8日以前とまでしか認定できない。
 そこで、3月8日以前の被告人の収支状況について検討すると、3月5日に支給された給料のうち216,000円が3月6日までに引き出されており、3月7日までにマダンは家賃等として32,000円を支払っており、さらに同居人2は家賃から公共料金の立て替え分を差し引いた1万円を支払っており、そうすると、3月8日以前に、少なくとも合計258,000円の収入があったことになる。
 一方、支出を見ると、3月5日に、友人に1万円を返済し、ナレンドラに12万円から15万円を返済したとしても、家賃10万円を用意するには、2千円の不足から28,000円の余剰があることになり、さらに、同僚に1万円を返済したという被告人の供述を考慮しても最大12,000円の額が不足するだけであって、給料日以前の被告人の所持金が確定できない現状にあっては、ナレンドラへの返済があったからといって、これが直ちに家賃の返済ができなかったとはいいきれない。

六 被告人の犯行現場への到達の可能性
 被告人が、午後11時30分までに、勤務先から本件現場に到達できたかどうかについて、到達できたと認定することができる。

七 被告人が被害者と面識があったことを捜査の過程で否定していた事実
  被告人は、捜査段階において、被告人との面識がないと供述していたことは事実であるが、この点、「自分がセックスをしたことを言うのがはずかしかったし、男3人でセックスしたのは悪いことだと考えたので、言いたくなかった。」、「自分がセックスをした女性がその部屋で殺されたので、私が犯人と疑われると思ったので知らないと答えた。」と弁解しているが、こうした弁解は、万人を納得させるものではなく、犯人でもない者が、さしたる理由もないのにどうして面識を否定したのか疑問である。
 しかしながら、被告人は、3月9日には通常通り出勤しているし、翌10日には同僚を自室に招いているほか、19日までは仕事を続けており、さらに、警察が自分を探していることを知ると、進んで警察に出頭しており、こうした被告人の言動は、犯人性を否定する方向にも働く。

八 手帳の記載と被告人の買春状況に関する齟齬についての検察官の主張について
 検察官は、被告人の買春状況に関する説明によると、被害者と会ったのは、2月25日から3月2日頃の間に買春したのが最後であるということであるが、当該説明がなされた後に開示した被害者の売春の日時・相手方・金額等を克明に記載した手帳には、そのような記載はないし、鑑定結果から認められた本件精液中の精子頭部の形状に照らし、この時期に射精されたものではないから、被告人の弁解は虚偽であるという。
 検察官の主張のうち、射精の時期に関しては、すでに検討したように、精子の形状等からはいずれとも決しがたいので、手帳の記載と関連した主張について検討する。
1 手帳の記載と被告人の説明の齟齬について
  検察官は、相手方の記載にある「?」の意味について、「売春の相手方の名前がわからなかった場合」や、「名前がわかったとしても最初の売春の場合」に記載されていると解釈できるという。そして、売春の相手方が持っていたメモ等の記載と本件手帳の記載は完全に一致していることから、本件手帳の記載は正確であると主張する。
  そして、被告人の説明が真実であるとすると、手帳にその旨の記載があるはずであるが、この間には、2月28日の欄に、「?外人0.2万円」との記載があるだけで、他に外国人を売春の相手方とする記載はない。しかも、初めての売春の相手方であることを意味する「?」が併記されている。しかしながら、被告人は平成8年12月の時点で被害者と買春をしていたというのであるから、矛盾した記載である。しかも、売春代金が0.2万円と記載されているから、被告人が支払ったという金額とも齟齬がある。
2 検察官の解釈に関する評価
  しかしながら、「?」の意味が初めての売春の相手方という意味とは断定できず、名前のわからない相手方という意味もあるし、外国人の場合個人的に識別できずに、「?」の記載になったとも考えられる。また、記載の正確性を担保する裏付けとなるようなものはない。
 なお、検察官は、本件手帳の記載は正確であると強調するが、本件犯行当日である3月8日の記載が欠けていること等からすると、被害者は、帰宅後に、1日分もしくは数日分をまとめて記載するのを常としていたのではないかとうかがわれ、実際の売春の状況と本件手帳の記載内容に食い違いが存在したとしても不思議はない。
 ところで、被告人は、最終の買春の後に施錠をしなかった理由として、「鍵を返す3月5日後もセックスのために部屋に入れるようにしておくため」と弁解するところ、店長Aが被告人に鍵を返還するように電話をしたのは3月1日であるから、その後に本件鍵の返還の話は本格化したと思われ、そうすると、被告人が被害者との最後の買春に及んだのは3月1日以降になると思われ、2月28日欄の記載は被告人が最後の買春に及んだものではないことになる。しかしながら、他方では、3月1日以前には101号室の賃借話はすでに消滅していたと考えられる以上、2月28日に、被告人が、3月5日に滞納していた家賃とともに本件鍵を返還しようと考えていたとしても不合理とまではいえない。そうすると、2月28日欄の記載が被害者の被告人に対する売春を意味しないとまでは断定できない。

九 まとめ
 以上、被告人が本件売春客ではないかという疑いは相当に濃厚であるが、他方で、被告人を犯人とするには、以下のような合理的に説明できない疑問点がある。
第六 解明できない問題点
   解明できない問題点は、次の通りである。

一 本件コンドームを遺留した理由
 犯人がなぜ本件コンドームを便器内に放置したままにしたのかという疑問がある。
 これを包装していたパッケージが101号室から発見されていないことからすると、犯人は、本件コンドームを本件犯行時には使用していないのではないかという疑問さえわく。別のコンドームを使用し、そのパッケージとともに持ち出したのではないかという疑問である。パッケージを持ち出しながら、最も有力な証拠となりうる本件コンドームを、水を流すこともなく放置するというのはあまりにも不自然である。

二 第三者の陰毛の存在
 陰毛に関しては、被告人と被害者のものと判明した以外の残りの2本については第三者のものである。

三 被害者の定期券入れについて
 定期券入れが豊島区巣鴨に民家の敷地内で発見されているが、被告人が犯人であるとすれば、どうして現金のほかに定期券まで奪ったのか、発見場所には土地勘のない被告人がわざわざそこまで赴いて民家敷地内に投棄したのか説明がつかない。

第七 被害者が101号室を独自に使用していた可能性について
  検察官は、被害者が101号室に立ち入ったのは犯行日以外にはなく、被害者が被告人以外の者と売春に使用した可能性はないと主張し、その根拠として、手帳の記載から101号室を売春に使用した形跡はなく、被害者の売春の相手方にも同室で買春したものが見あたらないこと、犯行直前である3月7日の売春の際、101号室を使用せず、円山町の駐車場を使用していることをあげる。
 しかしながら、手帳の記載においては売春の場所まで特定されているとはいえず、また判明した売春の相手方の中に101号室を使用した者がいないとしても、判明した相手方に限定されてのことである。また、駐車場で買春した相手方とは以前より駐車場を使用していたというのであり、101号室の使用を否定する根拠にはならない。
 そこで、被害者が独自に101号室を使用した可能性を検討すると、被告人の弁明によれば、被害者との買春に101号室を使用したのは2回であり、2月25日から3月2日頃の間の最終使用の後、同室を退出する際には解錠しておいたというのであるが、この弁解を裏付ける状況証拠はない。しかしながら、被告人は、平成8年12月に被害者と買春し、その買春代金が少額ですむことを知っていたこと、本件鍵を約1ヶ月間預かっており、その間、101号室を使用することができたこと、被害者が客を求めて現場付近を徘徊していたことからすれば、最終使用の後解錠したおいたという弁明もあながち不合理ではなく、また、そのため被害者が101号室を使用できることを察知していたはずという主張も荒唐無稽であるということもできない。
 ただ、101号室を使用することが可能であることを被害者が知っていたとしても、空室とはいえ通常のアパートの一室である同室を、同室と関係のない被害者が勝手に使用して被告人と関係のない者と独自に売春に及んだという可能性が、現実問題として、ありうるのかという問題がある。
 しかしながら、101号室からは、被告人と被害者以外の者の陰毛が2本落ちていたのであるから、第三者が101号室に入って性交したとの疑いも払拭できない。

第八 結論
 以上、検討したところによると、検察官の主張するように被告人と犯行を結びつける各事実は、被告人の有罪方向に強く働くもののように見受けられるが、これを子細に見ると、そのひとつひとつが直ちに有罪性を明らかに示しているというものではなく、また、各事実を総合しても、一点の疑念も抱かせることなく有罪性を明らかにするものでもなく、反対解釈の余地が依然残っている。そして、その一方で、被告人以外の者が犯行時に、101号室に存在した可能性が払拭しきれない上、被告人が犯人だとすると矛盾が生じたり合理的に説明できない事実も多数存在しており、そうすると、「疑わしきは被告人の利益に」との刑事裁判の鉄則に従って判断するのが相当である。

第六 判決
 よって、無罪。