米国LL.M.コース出願の準備について

本稿では、米国Law SchoolのLL.M.コース出願の準備に際し必要な事項について情報提供することにいたします。将来の留学を検討されている方の一助になれば幸いです。
なお、本稿はあくまで一般論を述べるものに過ぎませんので、実際に出願される場合は、ご自分で最新情報を志望校ごとにご確認ください。


1.はじめに

米国Law Schoolには、主に米国の一般学生を対象とするJ.D.コースと、米国外からの留学生を中心とするLL.M.コースがあります。
前者は、通常3年間で、修了者にはJuris Doctor(法務博士)の学位が与えられます。J.D.コースは、米国の四年制大学(学部)を卒業し、Bachelor(学士)の学位を取得することが出願条件ですが、米国では日本の法学部に相当するものがないので、通常、J.D.コースの学生は、学部で他の分野を学び、あるいはその後さらに社会人経験を積んだ上で入学します。
これに対し、後者であるLL.M.コースは、通常1年間で、修了者にはMaster of Laws(法学修士)の学位が与えられます。米国外からの留学生については、米国外で法学に関する何らかの学位(J.D.、LL.B.、あるいはこれらに相当するもの。司法研修所の修了を含みます)を取得していることが出願条件になります。日本人が米国Law Schoolに留学する場合は、ほとんどがこのLL.M.コースに入学することになります。
なお、米国Law Schoolを修了すれば、Bar Exam(各州の司法試験)の受験資格を得ることができます。しかし、LL.M.の学位で受験できる州は、ニューヨーク、カリフォルニア、ワシントン等に限られます。


2.入学までの一般的なスケジュールについて

学校によって多少のバラツキはありますが、大体、前年12月から当年1月までに出願期限が設けられています(傾向として、東海岸の学校の出願期限は早く、西海岸の学校の出願期限は遅いというのがあるかもしれません。)。その後、同年2月、3月頃に合格通知があり、8月頃に入学(修了は翌年5月頃)となるのが一般的です。
したがって、次項に記す出願書類を、夏に渡米を考える年の前年末頃までに準備する必要があります。


3.出願手続について

日本ではあまり例がないように思われますが、ほとんどの学校は、出願者からの出願書類の回収を、 LSAC(Law School Admission Council)という業者に委託しています。したがって、出願者は、LSACのウェブサイトを通じて、出願書類を提出する手続をとることになります。各学校に書類を個別に送付する必要がないので楽です(ただし、書類は学校ごとに準備する必要があります。)。
以下では、通常求められる出願書類(当然ですが、全て英文です)について記します。

  1. 履歴書
    就職活動等をする際の履歴書を作成すれば足ります。
  2. 日本での学位授与証明書及び成績証明書
    日本で卒業した大学に対し、英文証明書の発行及びLSACへの直送(各大学からLSACへの直接送付。EMS等で送ってもらうことになります)を依頼することになります。その際は、LSACのウェブサイトから送付状をダウンロードして、これを当該大学に送ることになります。
    その他発行依頼の手続等は、各大学によって手間が異なると思いますので、事前に電話等で窓口に問い合わせましょう。弁護士の場合は、司法研修所の終了及び成績証明書(英文)も提出する必要がありますが、大学の証明書と比して時間がかかる傾向がありますので、お気をつけください(私の場合は発行まで10日ほどかかりました)。
    なお、これらの成績は、LSACに到着後、LSACが評価を行い、現地のグレードに変換されます。
  3. 推薦状
    通常、出願者の学術的な背景を知る者(大学時代のゼミの教授等)及び職務的な背景を知る者(職場の上司等)の推薦状を最低各1通提出することが求められます。
    推薦状は、こちらで下書きしたものをベースに作成される方、一からご自分で作成される方等、推薦者によって作成方法が異なりますので、事前に推薦者の方に相談して、どのように進めるべきか確認します。
    推薦状の提出は、推薦者が、LSACのウェブサイトからアップロードすることで行います。推薦者にLSACへ直送してもらう方法もありますが、通常は前者の方が迅速かつ簡便と思われます。
  4. パーソナル・ステートメント
    お題、書式、分量等は学校によってそれぞれですが、大体は、経歴や目標に関連付けて、当該学校を志望する理由を数頁以内で記載することを指示されます。
    パーソナル・ステートメントは、特にM.B.A.コース留学向けに、書籍や業者(カウンセラー)が充実していますので、煮詰まったらこれらの利用を検討しても良いと思います。
  5. 英語能力証明書
    多くの出願者が最も時間を割くのが、この英語能力証明書ではないかと思われます。具体的には、TOEFL(IELTSでも可の学校あり)のスコアです。
    TOEFLとは、英語圏の大学への留学を希望する非英語圏の出身者を対象に、英語能力を判定するための試験です。TOEICと同じく米国のEducational Testing Service(ETS)が主催し、試験はReading、Listening、Speaking及びWritingの各パートで構成され、各30点、合計120点満点でスコアが出ます。各地のテストセンターに赴いてウェブ受験することになりますが、所要時間は約4時間と長丁場で、1回当たりの受験料も235米ドルと高額です。
    各学校が合格に必要な最低スコアの目安を公表していますので、志望校の水準を早めに確認しておくことをおすすめしますが、TOEFLの場合、多くの学校が100点を最低スコアとしている印象です。しかし、実際には、90点台でも合格をもらっている方は多くいますので、点数が低くても他の要素でカバーすることは可能です。とはいえ、やはり、最も客観的に能力が測れる書類なので、合否判定においては、他の書類に比して重視されている印象です。逆に言えば、TOEFLの点数さえ良ければ、人気校から合格をもらうことも夢ではありません。
    かくいう私も、TOEFLスコアの取得には非常に苦労しましたので、多くを語ることはできませんが、やはり、早めに準備を始めること、過去問又は公式問題を多く解くことが大切だと思われます。TOEFL対策法はインターネットで検索すれば多く出てきますので、ご自分にあった方法で、コツコツ点数を積み上げていくしかありません。
  6. その他
    上記のほか、LSACのウェブサイトから、学校ごとに出願フォームを入力して送信する必要があります。出願フォームでは、氏名住所生年月日、勤務先情報、志望理由等、上記書類と重複する情報の入力も求められます。
    また、学校によっては、電話インタビューが実施される場合もあります。


4.留学費用について

最後に、留学に際し必要な費用について記します。勤務先の制度を使って留学される場合にはあまり心配する必要はないですが、自費で留学する方、勤務先の補助が全額出ない方等にとっては、現地で資金ショートしないように、渡米までに一定額を確保しておく必要があります。
一般に、LL.M.留学には、(家族を伴わない単身での渡米を前提として)最低でも1000万円の費用が必要であると言われますが、私も同じ感覚を有しています。もっとも、留学時の為替レートにもよるので、最低10万米ドルと見積もるのが適切と思われます。つまり、為替レートが1米ドル=110円であれば、1100万円ほど必要です。
かなり高額なので、勤務先の制度がないと、とても難しいようにも思えます。しかし、奨学金制度も用意されていますので、必要に応じて調査して、資金確保を試みることをおすすめします。
奨学金申請にあたり気を付けていただきたいポイントとしては、申請時点で、それなりのTOEFLスコアの提出を求められる場合が多いことです。例えば、著名なフルブライト交流事業の奨学金の場合には、渡米の前年の5月末までに80点以上のスコアを取得することが申請条件です。
前年12月から当年1月までに出願期限を設ける学校が多いと上記しましたが、出願期限ギリギリにスコアを取得すれば良いと思っていると、奨学金申請の機会を逃すことになります。その意味でも、TOEFLスコアについては、やはり早めに準備をするのが良いと言うことになります(ただし、スコアの有効期間は2年間なので、その点はご注意ください。)。


以上



2019年(令和元年)5月13日
さくら共同法律事務所
弁護士 小菊喜一